パルムフェンス キャンペーン

D&D3.5 オリジナルキャンペーン資料

第7話プロローグ「The Dread Fortress (脅威の要塞)」

―――フィル・オニクス

多次元界の住人や大いなる存在などによって、何らかの影響を与えられた“プレーン・タッチト”と呼ばれる存在の一人だ。中でも彼女は風の次元界の影響を受けた“エア・ジェナシ”である。

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フィルにとって風は友であり、自分そのものでもある。

照り輝くスカイブルーの肌には、そこだけ日焼けを免れたように奇妙な模様が浮かんでいる。晴天の夏空のような蒼い髪は彼女の周りにだけ吹く風で常になびいている。

フィルは優れたスワッシュ・バックラー(剣士)である。レイピアをきらめかせ、踊るように突き、なぎ払う。精錬された技の冴えを見切ることは常人には困難だ。

 

数日前。フィルは「海王の角笛亭」の主人から、とある人物の話を聞いた。その人はかつて“ゼファー(そよ風)”という二つ名で知られていたデュエリスト(決闘者)だ。街の名士たちの代理戦士として、決闘の場に赴いては依頼人の名誉を守り続けた勇名を持っている。フィルは剣の道を究めるため、その人物に会いたいと願った。主人から聞いた場所は、ゴブリンの巣よりはマシという程度のスラム街にある安酒場だった。昼間でも薄暗い店内には、ひどい臭いのボロを着た職にあぶれたゴロツキたちしかいない。

 

このまま帰る気にもならず、仕方なく店主に尋ねてみた。案の定、店主は“ゼファー”と言う名を思い出せず沈黙した。落胆して帰ろうとした時だった。

「あー。もしかしたらミランダの姉さんのことかな?」

まさかの言葉にフィルは目を大きくしたが、すぐにまた不安を掻き立てられることになる。

「ここいらの顔役で、みんなが“姉さん”と呼んでる人がきっとそうだよ。……でもね、今日はやめといた方がいいよ。先日ギャンブルで大負けして機嫌が悪い上に、昨夜は深酒して酔いつぶれているから。」

店主はカウンターでパイプをふかしながら答えた。煙は君に当たると不自然に揺れた。店主の態度も答えも気に入らなかったが、それでも来たからには、会うだけでも会いたいことを伝えると、店主はもう一度ふーっと口から煙を吐き、煙と指で方向を示した。

店の奥のテーブルで、ビールジョッキを握ったまま、顔をうずめている人物がいる。

「姉さん!おきておくんなまし。あんたにお客さんだよ!」

店主の大声にピクリと反応し、ややあってから顔を上げる。

 

女性だ。それもただの女性ではない。

すらりと伸びた夕陽のような緋色の髪。常夏のヴェラダインにあっても雪のような白い肌。そこには薄青の幾何学的な文様が浮き出ていた。

彼女もエア・ジェナシなのだ!!

 

彼女は机の跡のついたひどい顔をそのままに、めんどくさそうに目を開けた。フィルは丁寧に挨拶し、ここに来た目的を話した。だが、礼を失していないフィルの態度は、礼を失した態度で返された。

「はぁ?あたしに剣を習いたいだって?そう言うことは酔っぱらって言うもんだよ。」

ミランダと呼ばれたその女性は、早く君を追い返して、もう一度寝たいという態度を隠さなかった。フィルが食い下がろうと何かを言いかけた時、、、

「姉さん!!また昨日の奴らが……。」という店主の声に続き、乱暴に開かれたドアと数人の重い足音が響く。包帯でぐるぐる巻きの男を中心に、4人もの屈強な男たちが入ってきた。彼らの持つショート・ソードには明らかな殺気が含まれている。

 

「ほぉ~。昨日あれだけ痛い目を見たのに、恥の上塗りに来るとは律儀だね。」ミランダはへらへらしながら、おぼつかない足取りで店の真ん中に進む。ビールジョッキは持ったままだ。

一見すると隙だらけな様子に、襲撃者たちはミランダを囲んで勝利を確信していた。しかしフィルは気づいていた。ミランダを包む風の流れが変わっているのだ。

 

「盗賊ギルドだかなんだか知らないけど、ここの連中はあたしの仲間でね。縄張りが欲しいなら、よそを狙いな!」

言葉が終わると同時に、ジョッキのビールを正面の男にかける。目に入ったビールに苦しむ男をそのままに、ミランダは右隣の男へ鞘に入ったままの短剣を突き出す!男のみぞおちに食い込んだまま剣の柄を引くと、細身のレイピアが銀色の光を放った。それは左隣の男の持っていた短剣を弾いた。男の持っていた剣は、昨日痛めつけられたのであろう包帯の男の頬をかすめて柱に刺さって震えた。この連続した流れに誰もが圧倒される中、4人目の男がミランダの後ろから凶刃を薙ぎ払った。しかし彼女は振り向きもせずに帽子を押さえながら身をかがめてかわす。立ち上がりざま、男の

あごに強烈な頭突きを食らわせた。やっとビールを拭った男が態勢を整えると、ミランダは男の股間に振り子のようなキックをみまった。

 

一瞬の出来事だった。

 

襲撃者たちはお互いを支えるようにして去っていく。

「さて?なんの用だったっけ?」

あっけらかんと答える彼女を見て、フィルは師を得たことを確信した。

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