パルムフェンス キャンペーン

D&D3.5 オリジナルキャンペーン資料

第5話プロローグ「The Madness Submarine Cave (狂気の洞窟)」

――港湾都市ヴェラダイン。
大陸の海運路の要所にあるため、多くの支配者たちの関心を集めながらも、防御に優れた地形と人々の知恵で自治を守ってきた。
 
ヴェラダインの港湾部は眠らない。
常に外国から大小さまざまなものが荷下ろしされ、目利きの商人たちによって取引され、また別の場所へと運ばれていく。
港湾部の住人たちは、はるか異国から英雄的な海の旅をしてきた船乗りたちの厚い懐を狙って、昼となく夜となく彼らを楽しませている。
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しかし悪はどこにでも潜んでいるのだ!!
 
半月ほど前、頻繁な海賊行為によって大打撃を受けていた海運ギルドが、ついに大がかりな海賊退治を敢行した。戦神テンパスも合意し、彼の忠実なクレリックたちが重装な軍艦を提供し、珍しいことにミストラ神殿も加わった。つけあがった海賊たちがミストラ神の護る秘密の魔法に目を付けたからだ。
「モンテクオン海戦」と呼ばれる、誰もがヴェラダイン軍の圧勝を疑わず、その結果にならなかった戦いである。
 
海賊たちは暗黒の月の女神シャアの加護を受けており、狂信で結ばれたゴロツキどもは、恐るべき相手となった。また彼女は、彼らに邪悪な海獣を授けてもいたのだ!矢玉に加えて、双方の信仰魔法が海をうねらせ、捻じ曲げられた魔法の織が潮流をも変えてしまった。
 
死闘の果てに辛勝を勝ち取るも、生き残った者の心は犠牲者と共に深海に飲み込まれていた。
 
シャアのあざとい思惑は、果たして頓挫したのだろうか?
否!!
人智の及ばぬ偉大な神の永遠の計画は、敗戦に見せかけた次の勝利への布石なのだ。
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ヴェラダインは世界有数の貿易港として知られているが、海産資源の豊富さでも世界に並ぶ。
二本の大河が、パルムフェンス山脈や沈黙の森から豊富なミネラルを運び、微小な生物たちを育む。小魚や稚魚がそれを食し、湾でせき止められた穏やかな海に守られて育つ。大洋では、より大きなクリーチャーたちが胃袋へと成長した彼らを招待しているのだ。
漁業ギルドの魚市場では、毎日新鮮な魚が陸揚げされ、赤茶色に日焼けした半裸の男たちが、銀色の魚が詰まった籠を嬉しそうに降ろしている。潮の香りと生臭い匂いの漂う、ぬめった足場の船着き場は今日も大盛況だ。
波の穏やかな内海では、海藻類や貝の養殖も盛んに行われている。
 
自由都市ヴェラダインは、富を求め、娯楽を求めて集まるすべてを受け入れ、雑多な喧騒で彼らの悪だくみを隠してしまうのだ。
人の数だけトラブルがあり、英雄に憧れるおせっかいな冒険者たちの、その日暮らしを支えてもくれる。
 
空からおこぼれを狙っていたウミネコが、ゆっくりと降りてきて、揺れる波間に腹を浮かせた。彼は船からこぼれて浮かぶ小魚を喉へと運ぶのに夢中だ。
 
静かな海底をゆっくりと進む者がある。
そいつは青緑の周囲を見渡し、生魚の肉を食い破る感覚を思い出して、口元をゆがめた。笑みのつもりなのだろう。
だがそいつは、もっと大きな獲物が欲しいのだ。海に引きずりおろし、苦しみながら溺れていく様を見るのも、するどい爪で引き裂き、犠牲者がのたうち回るのも好きだった。
それが出来ないのはマスターに禁じられているからである。そいつには密命があるのだ。殺人の快楽と飢えをかろうじて抑えながら、しもべたる“そいつ”はゆっくりと海面へと上がっていった。
 
幾艘もの漁船がウミネコと交互に上下している。彼は首をもたげて、幾匹目かの魚を少しずつ喉の奥へと押しやった、その時、ウミネコが消えた!
 
忙しく働く人々は、彼らのすぐ足元で海に引きずり込まれたウミネコのことなど気づかない。
恐るべき捕食者が迫っているのに。