パルムフェンス キャンペーン

D&D3.5 オリジナルキャンペーン資料

第4話プロローグ「Thunder Delve Mountain(雷鳴山の秘宝)」

長いテーブルが並べられた食堂に、豪華で手の込んだ温かい料理がいくつも置かれている。今ではすっかりシュウの信頼を得た君たちは、彼の晩餐に呼ばれた。柔らかな光を運ぶステンドグラスの中央には、ラサンダーその人が、その周りには伝説的なクレリックたちの活躍の場面が描かれている。
上機嫌なシュウはいつもより口数が多く、修道士たちもリラックスしている様子だ。料理からはふわっとした湯気と胃をくすぐるような良い香りがしており、君たちの苦労を十分に報いてくれる。
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しかし、にぎやかな宴は慌てた様子で入ってきた神官によって破られてしまった。彼の耳打ちを聞いたシュウは突然大きな声を出した。
「なに!ニムロンが!?」
 
シュウと旧知の間柄であるドワーフがわざわざ訪ねてきたのだった。かつての冒険で負った心身不自由と、重ねた年齢、そこに長旅が加わり、疲れきった彼は、倒れこむように神殿へとやってきたらしい。
ドワーフの名はニムロン。別名“国知らずの王”と卑下される、今では衰退したゴールド・ドワーフ族の生き残りだ。
故郷を失って100年。国を失ったドワーフたちは散り散りになり、幸運な者は住処を見つけたが、放浪の果てに死ぬ者、生活もままならずに飢えや病で死ぬ者など、急速に数を減らし、今や絶滅の危機にさえある。ドワーフたちは何度も故郷を取り戻す戦いをしてきた。多くの英雄たちが挑戦したが、成功した者は未だいない。ニムロンの父王でさえ、ついに故国にて没することになった。サムライの数が減るごとに、挑戦の難易度は上がっていき、最後の挑戦は十数年前。王ニムロン自身が挑戦し、決して消えることのない苦い思いと、身体の自由を失うほどの深い傷を負い、かろうじて命だけ持ち帰った。
 
ドワーフでなければ耐えられなかったであろう旅の後でも尚、王の黒真珠のような瞳には気が満ちていた。
「何があったのだ。友よ!」シュウの問いに、古い火傷の痕や戦傷を刻んだドワーフのサムライマスターは、クランの滅亡を決定づけるような悲劇について話し始めた。
「……無念じゃ。苦杯をなめ続けて、幾夜、幾年。心の臓に染み込む無情の思いは、思い描く栄光と絶望の死を前に、ついに溢れたのじゃ。」
謎解きのようなドワーフ独特の言い回しだが、旧友は十分に理解していた。
「まさか!我らの支援を待てず、雷鳴山へ向かったのか!!」
シュウの激しい言葉は、ドワーフ王の後悔をさらに深くした。
「想像できるか、友よ?かつてコンゴウ氏族は、雷鳴山にあって、その美しさ、工業力をして天下に鳴り響いておった。耐えぬ炉の炎と溶鉱の熱の中、道場では若きサムライたちが鍛錬に励んでおったのだ。
そなたも見たはずだ。我らが王国は朽ちて尚、かつての栄華を容易に想像できる姿であった!」
老ニムロンは、懐かしむようにドワーフの栄誉を語った。決して言い訳ではなかった。シュウは軽く目を閉じ、ドワーフたちと失った国を取り戻す挑戦をした、かつての日々を思い出した。石の静けさに包まれた王国の広間は、数十基の斑レイ岩の柱が並び、それぞれ人間5人分以上もあった。巨柱が支える天井は星界にいたるほど高く、明かりも届かぬ頂部に埋め込まれた宝石が星々の輝きのようだった。
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「残ったわずかなサムライたちの訓練の日々は終わった。王国を受け継ぐわしの娘グローナもだ。悲願を達成するべく一団を送ったが……失敗したのだ。我らが目を離したわずかな間に、“デスアイ”と言う名の山賊とその一味が住み着いたのだ。取り除くべき脅威が増えたのだ。フィルスネイカーだけでなく!!」
同情色のシュウの瞳に、わずかな恐怖が染み出した。幾人ものサムライマスターたちを焼き、潰し、王国からドワーフを追い出した恐るべき怪物。その後も挑戦者たちを退け続け、今もそこにある。うねる巨躯を地中に隠し、あらゆる所から現れ、灼熱の炎を吐いて死をむさぼるワーム―――フィルスネイカー。
十数年前の苦い結果となったニムロンの挑戦に、若きシュウは縁あって同行していたのだ。
 
評議員となったシュウは、故国奪還を固く約束していた。ヴェラダインにとってもドワーフ族の復興は利益となると思ったのだ。しかし有力商人の集まりでもある評議会の天秤は容易には傾かなかった。シュウは約束を反故にしたつもりはない。時間をかけて説得を続けていたのだが……。
ニムロンたちは、頑固で知られるドワーフであり、武士道を生きるサムライでもある。彼らがただ死を待つはずが無かった。彼らの抱く炎が、いつか故国の奥で冷える炉心に届くと信じているのだ。
 
シュウが聖職にありながら評議員になったのは、もっと大きなことを達成するためだった。ドワーフの頑なさをよく知る彼は、なぐさめるように言葉を紡いだ。
「古い友よ。グローナは取り戻さねばならん。分かっているよ、彼女の命はそれ以上の価値を持つ。街の軍隊ではダメだ。大勢は送れぬし、軍を動かすには政治的な判断も伴う。だが友よ、冒険者なら別だと思わんかね?」
4つの瞳が君たちに注がれる。冒険の始まりだった。

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ドワーフ王国の城壁を食い破るフィルスネーカー」