第8話プロローグ01「Thunder Delve Mountain Retry (雷鳴山再び)」
■冒険の導入
その女性は自分の境遇を理解していなかった。
―どれだけ歩いたのかしら?
―ここはどこ?
―私はどうやってここに来たのかしら?
―見知らぬ農村?いいえ、ここは来るときに通った村?
意識とともに周りの景色も少しずつ明らかになる。
いつの間にか日は沈み、夜の女神のケープが世界を覆っていた。この時間なら、人々はシャア(夜の女神)から逃れるように明かりをつけ、恐怖を追い払うわずかな試みとして酒を飲んで騒ぐはずだ。しかし、この村は静まり返っている。完全な静寂であった。
夜に飲まれた村のあちこちで累々と人々が横たわっている。赤黒く光る池に沈みながら……。誰もが絶望か恐怖の死に顔だった。全身をズタズタに引き裂かれ、衣服や皮膚で覆われていたものが明らかになっている。盗みが目的ではない、動物による捕食でもない。ただ殺すために行われたものだ!
心を凍らせることだけが、この恐怖に耐える方法だった。
村の明かりがほとんど消えているのに暗闇を見通せるのは、エルフ族から受け継いだ夜目によるものではない。明かりのある夜なのだ。雲間を抜けて輝く大きな月が、冷たい空を通りぬけて村を照らしていた。
満月だ!!
運命の夜だったのだ!心に浮かんだ最悪の想像を追い払うことはできなかった。違うことを何度も祈りながら手を持ち上げて確認する。そこには犠牲者たちの血と体液を滴らせた自分の手があった。口の中に鉄錆のような味が広がる。それは顎から胸にかけても溢れていた。
この惨状の全てを理解した時、頭上の月が再び望まぬ恵みを授けようと輝いた。
内から溢れる狂気と歓喜が身体を揺らす。ゴキッと鈍い音で関節が外れ、次々と骨格が再構築されていく。それは操り師の不格好な人形のダンスのようだった。白雪の肌にどす黒い血管が浮き出し、みるみると剛毛が全身を覆う。嗚咽のような音を響かせながら、鼻の穴が開き、生臭い息を撒き散らす。上あご、次いで下あごが、短剣のような牙を生やしながら張り出してくる。
怪物は月夜に吠えた。